ラクダ・仮面・コーヒー

佐々木です。ブログを書くのは最後かも。
夏公演よろしくお願いします!!




※以下、小説です。


面白いお芝居をつくるために、私は学びを怠らない。学ぶ手段は数あるが、私の場合は観劇だ。ああしろこうしろと事細かに書かれた手引書を読んでも目が滑るばかり。舞台を前に何も考えず、過ぎゆく情報の濁流から胸のどこかに引っかかったものを反芻すれば、それこそが私にとって最大の糧であり知恵である。全く難しいことではない。いつだって行き詰まりに打開策を与えてくれるのは、劇場から帰宅してコーヒーでも淹れる時間にふと思い出すようなことなのだ。それゆえ、私の手帳には諸所の公演予定が所狭しと並ぶ。守備範囲は場末の小劇場から近隣学校の文化祭にまで及ぶ。しかし先日、程近い幼稚園の発表会に赴いたのは誤りだったと言わざるを得ない。

〜〜〜

おゆうぎ会を侮るなかれ。幼稚園では演目、配役、演出のすべてが実質的に先生の思いのまま。昨年訪れた別の園では先生の趣味が色濃く出ていた。というか濃すぎであった。年長にあたるバラ組が披露したのは、熾烈な料理人の闘いを描いた『グルメ戦線異状なし』。異常である。さて、今年やってきた幼稚園。年長クラスはサボテン組とますます刺々しく銘打たれ、弥が上にも高まる期待。ところが幕が開いてみれば、おりひめとひこぼしが主役の至って無難な七夕劇であった。少々落胆したところで、違和感を覚える。どこかおかしい。そして、嗚呼、気づいてしまった。ひこぼしがラクダを飼っている。何度見ても牛ではない。コブがある。二つある。牛をひくから牽牛なのに。これでは牽ラクダ。よく見ると園児二人がかりで演じている。コブが二つあるからだ。牛なら一人で済んだのに。いや、むしろ役に対して園児が余ってしまったから牛をラクダに変えたのか?どうせならコブを三つにすれば隣の寂しげな木の役は生まれなかったのではないか?その解を求め、私は記憶の奥底へと潜る。

七夕は日本だけのものではない。発祥は中国とも、さらに西方の風習ともいわれる。フタコブラクダはラクダの中でも圧倒的マイノリティで、原産は中央アジア。生息地もその周辺に絞られる。中国の西、中央アジア……。点と点が繋がる。遥か昔に落としたはずの民俗学と生態学の単位が私に味方している。小さな織姫と彦星が結ばれる頃、私は仮説を立証するべく席を立ちかけたが、思いとどまり終演を見届けた。ひとまずは晴れやかな木の笑顔に、安堵する。

〜〜〜

なんと演出家の先生はキルギス人であった。仮説はどうやら正しかったということになる。中央アジアの一国、キルギスの民は日本人と見分けがつかないほど顔が似ていることでも知られ、同じ祖先から分かれて肉を好む者がキルギス人となり、魚を好む者が海を渡り日本人となったという話があるほどだ。私は先生に気に入られ、ニッキル倶楽部なる組織への勧誘を受けた。月に一度の交流会では両国の代表者が肉ないし魚に関してプレゼンを行い、異文化交流を深めるのだという。私は怪しげな書類にサインを済ませ、気づけば日本代表に担ぎ上げられていた。

私は苦慮した。図らずして国を背負い魚を語る任に就いた私はそもそも肉派であった。魚は小骨を取り除くのが面倒であった。三枚おろしも満足にできない私だ。海なし県で育った私だ。魚へんの漢字が全然読めない私だ。料理、釣り、飼育、手当たり次第にめくる手引書はやはり目が滑る。死んだ魚の目に鏡を見るたびギョッとする。味のしないコーヒーを啜っても、濁りは取れない。

〜〜〜

その日が来たらしい。下宿前に停まった不似合いな高級車に身を任せ、倶楽部の屋敷へ運ばれる。車を降りると、今度は赤い絨毯が仰々しい扉の向こうへ続く。入るとスクリーンを調整していた仮面の紳士達が下がり、反対側の扉からキルギス代表らしき人物が現れた。やはり日本人とそう変わらない、どこかで見たような顔。しかし、表示されたパワーポイントのタイトルを見た瞬間、私は相手が何者であるかを理解した。

『牛丼戦線異状なし』

バラ組の先生だ。彼も、キルギス人だったのだ。意気揚々と滔々と、ジョーク交じりに語るバラセン(バラ組の先生)。異文化交流なのに中身は日本の牛丼チェーン比較。こんなに高級感に満ちた空間で牛丼チェーン比較。調査店舗が百万遍だけの牛丼チェーン比較。『西部戦線異状なし』の語感が好きなだけで内容全然知らない感。ニッキル倶楽部とかいう意味不明組織。ありえないほど読みにくいパワポ。私はすべてにむかついた。応戦するほかない。用意していた論文じみたスライドを消し去り、身一つで壇上に立つ。さあ、魚にまつわる有益極まるプレゼンテーションをはじめよう。自炊が苦手な私だが、これだけは知っている。スーパーで買った半額のお刺身を最もおいしくいただく方法だ。

〜〜〜

帰路、思い返す。キルギスには大きな湖があり、魚好きもいるという。当たり前だ。ここしばらく、一体何を苦しんでいたのだろう。全く難しいことではなかったのだ。やっと満足にコーヒーを味わえそうだが、今日は趣向を変えて緑茶にしよう。そのほうが合うはずである。お刺身にも、牛丼にも。




※以上の文章は何から何までデタラメです。代わりに有益な情報を一つ。今日から公演本番です。ぜひ来てね。

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劇団愉快犯

Author:劇団愉快犯
京都大学あたりで、広義の「喜劇」を背負い活動する劇団。

http://yukaihan.info/

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